宗教法人の労働保険・社会保険④ ~「働いていると年金がもらえない」は間違い~
2026年8月3日
ブログ更新が立て続けなわけですが、このシリーズ、やはり検索から来る方も多いのでなるべく最低月一はいきたいところです。
③のラストで予告しましたが、よく勘違いをしている方がいる表題の件が今回のテーマです。
特に私のような宗教法人の役員は定年もないですし、生涯現役も可能です。
そして、それなりの収入を得続けることもできるのですが、そうすると+αの年金は不要などと考える方もいるようです。
大寺院で月に数百万円を所得としてもビクともしない法人は確かに存在していますが、それはごく少数、中には現状でも厳しいところもあるといいます。
参考に僧侶の年収に関して言及している記事を少し
・4割が年収300万円以下」お寺経営の厳しい現実(プレジデントオンライン)
・「住職」の年収はいくら?一般的な会社員の平均年収と比べてみた(ファイナンシャルフィールド)
・僧侶(住職・坊さん)の収入源とは? 年収・給料・ボーナスの統計データを紹介(キャリアガーデン)
下2つは総務省の「賃金構造基本統計調査」の孫引きのような体になりますが、この平均500万円強を見てどう感じるかは様々でしょう。
基本的にこの平均値付近及びそれ以下の場合は厚生年金のメリットは大きいと思われます。
平均値を参考に令和8年時点で43歳(配偶者43歳の年収120万円、子8歳・6歳)・東京都港区・月収45万円(年収540万円)で社会保険に加入した場合をシミュレートしてみましょう。
・健康保険料(介護保険2号被保険者)個人負担分…月25,234円(同額を法人負担)
・厚生年金保険料個人負担分…40,260円(同額を法人負担)
比較対象として法人で社会保険に加入していない国民健康保険・国民年金1号被保険者の場合
・国民健康保険料…月62,822円(全額自己負担)
・国民年金保険料…月35,840円(全額自己負担)
※子ども子育て支援金については略
健康保険料に関しては総額(法人負担分)を併せても下がっています。
これは何度か出している被扶養の概念の有無によります。
国民健康保険は被扶養のシステムはありませんが、健康保険は年収130万円未満(60歳以上or障碍者なら180万円)であれば被扶養にできます。
被扶養者がいる場合は基本的にプラス面しかないといえるでしょう、倍額でも国保より安いです。
年金に関しては負担分が上がっていますが、これには国民年金保険料が本人に加え被扶養者分も込みとなっています。
本人は言わずもがな、被扶養者も前回の説明の通り国民年金の3号被保険者として老齢基礎年金の額に反映されます。
そして、更に65歳から老齢厚生年金も支給されることで老齢年金が2本立てになります。
そのリターンを上記の例で65歳まで(22年・264月)加入した場合で簡易的(給与据置、再評価率等除外)に出してみますと
・本人の老齢厚生年金…月約53,000円
・本人の老齢基礎年金…月約70,000円(これまで未納なければ)
・配偶者の老齢基礎年金…月約70,000円( 〃 )
※老齢厚生年金額=平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数
世帯の収入と考えれば
・月約40,000円負担→月約193,000円リターン
・月約35,000円負担→月約140,000円リターン
少なくとも、自己負担分で考えれば概ね損をしているという感覚はないと思われます。
それに加え、生涯現役という点は強みになります、70歳まで厚生年金に加入できるためです。
70歳まで加入した場合に老齢厚生年金は月約65,000円まで伸びます。
もし、65歳や70歳でも月給45万円のままであれば、収入が月約12~13万円強上乗せとなります(課税対象にはなります)。
配偶者は120万+7×12は204万円となるので180万円未満になるよう調整をしたほうがいいでしょう。
その理由としては健康保険、こちらは75歳まで加入できますし、75歳を過ぎて後期高齢者医療保険に切り替わるまでは被扶養にできるためです。
では、なぜ年金がもらえないというようなご認識をしている方がいるのか、それは支給停止調整額の問題です。
支給停止調整額とは、簡略化していうと給与(今回はボーナスありの例は除外します)+老齢厚生年金の月額が一定額を超えた場合、その半分が支給停止となるというものです。
その一定額は令和8年度だと65万円です。
令和7年度は51万円でしたが大幅にアップしています。
ちなみに、令和8年度も当初は62万円の予定でしたがそこからさらに引き上げられています。
これには労働力の問題等の事情がありますが、基本的にラインは引き上げられていくものと考えられます。
具体的な数値でいきますと
①給与60万円 老齢厚生年金8万円の場合…(60万+8万-65万)×1/2=3万円→老齢厚生年金は5万円のみ支給
②給与56万円 老齢厚生年金8万円の場合…56万+8万<65万→老齢厚生年金は全額支給
③給与70万円 老齢厚生年金8万円の場合…(70万+8万-65万)×1/2>8万円→年金額オーバーなので全額支給停止
この支給停止調整額のラインにかかっている方が「厚生年金をもらえない」と誤認していると考えられます。
しかし、見ての通り給与を調節すれば見ての通り全額支給なり一部支給はされます。
また、上記2つの式を見比べてみてください。
①の収入は月65万円 法人の給与支出は変わらず
②の収入は月64万円 法人の給与支出は-4万円
と経費削減につながっています。
なお、老齢基礎年金は上記に関係ないため、いずれにしろ7万円が支給されます。
それを含めて考え、「収入を月65万円にしたい」というのであれば
・給与50万円 老齢厚生年金8万円 老齢基礎年金7万円
という形にすればよく、これだけで経費が大幅に削減(上記の例なら-15万円)されるのです。
これがなぜ役に立つかというと、必ず存在する「住職+副住職の2人体制」の時期の運営に影響が少なからずあるためです。
30歳時点に子が生まれて、23歳から副住職として給与を出す場合、当然ながら人件費は大幅にアップします。
2人体制が厳しければ外部で仕事を持って、という形にはなりますが、そのような状況でも経験を積ませる必要はあります。
平日は外部で働いて所得を確保したとしても、土日に寺務に携わる以上、それなりの手当を出さねばなりません。
そして、さらに結婚して子育て世帯になった場合などは収入がますます重要になってきます。
このように外部で収入を賄うシステムは地方にいくと厳しい場合もあります、そうなると寺院一本で二世帯を維持するというような場合もあります。
ちょうど子が35歳のその年代に入れば父は65歳、そこで収入を老齢年金2本立てで一部補う形にすればその分を子に回せるわけです。
そうなると、当然ながら年金でフォローするのは重要になります。
これは一般の会社ではそうもいかない面もあります。
支給停止調整額にかかってしまい、年金を受給するために給与を下げるかというと、そういった判断をする方は多くないようです(年々、支給停止調整額のラインは上がっているので今後は違うかもしれませんが)。
親族系の会社であればまだあるかもしれませんが、自身の所得を確保したいという面が強いためでしょうし、それは当然のことです。
10万円を得るために給与を20万円下げる、となると本末転倒ですからね。
しかし、家族経営の宗教法人は違います、自分が少し控えめにした分は檀信徒のための設備投資であったり子や孫に直接的に回りますので、そのためにある程度給与を抑えるという選択は先々のことを考えれば十分なメリットとなるといえます。
生涯月給200万円にしたいしそれが可能、という場合は老齢厚生年金は支給停止調整額が撤廃されない限り受けられません。
老齢厚生年金は報酬比例なので「元を取る」という考えでいくと保険料が低い=所得が低いほうが早いです。
所得が大きいとリターンは大きくなるのですが、元は取りにくくなります。
このような背景には「社会保険の3つの柱」のひとつ「所得再分配機能」があるためです。
高所得者の負担を大きくすることで低所得者のバックアップをするわけです。
これは広義で言えば布施の概念に近いものがあります。
おそらく布施に類するものを説かない宗教はないでしょう、宗教者としてはこれを受け止める必要もあります。
そもそも加入していないのが違法、という前提はありますが、こうした社会保障費を不当に安くするような行為は好ましいものではないでしょう。
とはいえ、そんな事例は決して多くないごく上澄みでしょうから、厚生年金のメリットについては基本的に多くの宗教法人が受けられるものであると考えられます。
給付額を含めたバランス調整等はまさに社労士の専門分野ですので、「宗教法人 厚生年金」などの検索で辿り着いた方はぜひお問合せください、カスタマイズした資料を作成して説明・その上での手続きを承ります。
次回は+αで収入を得ている方にとって得するかもしれない話の予定です。