宗教法人の労働保険・社会保険② ~厚生年金と健康保険の加入義務~
2025年12月8日
シリーズ第1回目では大前提として、当ブログで社会保険というと狭義のほう、厚生年金保険と健康保険についてという話をしました。
2回目では引き続き総合的な話から入っていきます。
社会保険料に関しては選挙の公約でもたびたび耳にするので、今まで無関心だった方も「高い」という認識が強くなっているようです。
私も加齢という背景はあるともいえますが、社労士資格をとったことから上記話題を振られることが増えてきました。
そんなわけで、今まで通り何となくスルーしてしまうことは後々大きな痛手になる可能性があります。
世の法人代表は当然ながらその知識を得た上で経営にあたるわけですので、宗教法人の方もしっかり把握しておく必要があるでしょう。
まず、名称は住職でも神主でも牧師でも何でも構いませんが、これらはすべて「代表役員」という扱いです。
私も「宗教法人 願生寺 代表役員 遠藤和成」となっております。
代表権を持つということは「労働者ではない」ということですので、労働保険(労災保険と雇用保険)に関しては加入の必要はありません。
詳細はこちら(厚生労働省)をご覧ください。
しかし、法人役員とはいえ「法人から給与を受けている」という形になるのが基本です。
その面では「労働者としての側面を有する」ということで、先の社会保険に関しては加入の義務があります。
これは私が年金事務所に問い合わせても明言されましたし、日本年金機構のサイトでも明確に加入義務があることが書かれています。
万一、給与という形でないという方は別の問題が発生しているので、記事を紹介しておきます。
①税知識欠く住職が招いた追徴「緩い法」ずさん会計ゆるす(産経新聞オンライン)
②さい銭を生活費にした宮司も…宗教法人の源泉徴収漏れ相次ぐ、5年で追徴税額45億円超(読売新聞オンライン)
給与ではなくお布施や地代といったものをを個人口座に入れている場合は脱税・追徴などの問題が多分に発生します、即座に止めることを推奨します。
というわけで、住職いえども法人から給与を受ける立場が基本であるということについてはご理解いただけたかと思います。
そして、社会保険加入についてです。
住職等の名称を問わず、法人から給与を受けている以上上記の事情から厚生年金保険と健康保険に加入しなければなりません。
しかし、社会保険に加入していない方は国民年金や国民健康保険の保険料を納めているというかもしれません。
確かにこれらも社会保険の一種ではありますが、個人事業主など向けのもので、法人で常時雇用される人が加入するものではありません。
つまり、これらに加入していない場合は義務に違反しており、法人名の公表のほか「6か月以下の懲役か50万円以下の罰金」が科される場合もあります。
一方で大きなメリットもあります。
厚生年金と健康保険の保険料は法人と個人で折半となります。
一方で国民年金と国民健康保険については一切経費になりません、もし経費にしている方がいたら即座に中止し2年以内分は法人に戻してください。
そのため、仮に保険料がともに10万円だったとしたら
・社保加入→5万円は法人経費、5万円は自分での支払い
・社保未加入→10万円全額自腹
ということになります。
厚生年金・健康保険の保険料はこちら(協会けんぽ)で確認できますので、法人所在地の都道府県のものを参照してください。
おそらく大部分の方は逆にご自身の負担が減ると思われます。
一方で、所得が大きいのにそれをごまかす形になってしまう方もいるはずです。
社会保険料への関心が高まっている中、正当な額を負担していないということが公になることは信用の失墜を招きます。
早めにご対応をいただくようお願いします。
今回は「宗教法人は住職等1人でやっているところであろうが社会保険の加入義務がある」ということをご認識ください。
次回は副業がある方向けのお話の予定です。
定例ブログと宗教法人の労働保険関連調査のお話
2025年12月1日
早いもので師走となりました。
寺のサイトにも書いた豆知識ですが「師走」は「僧侶も走り回るほど忙しい」というのは俗説だそうです。
当事務所は個人事業主としてやっているので、そろそろ年末のシメが必要です、税理士の先生にデータ作って投げるだけではありますが。
よく聞かれるのですが年末調整は税理士の独占業務です、社労士は給与計算までとなります。
お膳立てくらいまではできますが、正式なものは税理士の先生へお願いいたします。
逆に社会保険・労働保険に関する作業は社労士の独占業務なので、それはこちらへお願いいたします。
9月に開業してあっという間の年末です。
思ったほど社労士業務に注力できなかった感はあるのですが、なんとか顧問先ゼロで年を越さずに済みそうです。
社労士としての一番の大仕事は東京SR臨海ブロック研修で講師をさせていただいたことでしょうか。
色々と至らぬ点はありましたが、個人の経験としては非常に良いものでした。
あと、今年の仕事としては表題の労働保険の加入状況調査に対するアクションでしょうか。
おそらく都内で相当数の宗教法人に確認が行っているのですが、思ったほど関連の相談はありませんでした。
しかしながら、前回のブログにまとめた通りの条件ですと、ひっかかるところは多数あると見込まれます。
実際、問題アリの状況ながら対処をしていないところもあるようです。
おそらく今後も加入調査が定期的に行われることが見込まれます、状況の変化などで加入が必要になるケースもあるので現状の診断と今後の可能性についても見ておくことは必要だと思われます。
よくあるのはやはり
・住職世帯と副住職世帯の併存
・単発or定期的なヘルプ依頼
でしょうか。
特に注意なのは定期的に特定の人に留守番や法要の手伝いをしてもらっている場合、これは「常時雇用」扱いになるケースもあります。
たまに単発バイトに来てもらっている感覚の方もいるようですが、仮に単発だったとしてもその際に労災保険加入は必要なので間違いやすいポイントです。
これも前回の通りですが、さしたる額面ではないので信用失墜と天秤にかければスルーするのは得策ではありません、そもそも違法ですし。
また、労災保険は全額法人持ちなので収入が減ることもありません。
あと、わかりにくい点としては「同居の親族」と「生計同一」のところでしょうか。
私も不明確で同居のラインはどこになるのか、敷地内ならO.K.か、渡り廊下などで続いている必要があるかなど問い合わせましたが、東京都労働局の回答は「場所的観念より生計同一関係」そして「労基署の調査によって実態を見て判断」ということだそうです。
ここで出てくる「生計同一」ですが、定義については調べればすぐに出てきます、今回は国税庁のものを見てみましょう。
この「生計同一」という点だけに限れば同じ家に住んでいることは必要ありません。
たとえば、単身赴任のお父さんとお母さん・子、両親と離れて一人暮らしの大学生(仕送り有)も生計同一にはなります。
送金や援助が行われているかどうかという点がポイントになるようです。
この場合の金額は具体的に○○円以上などの縛りはなく、電気代を出しているなどでも認められます。
ただし、今回の労災保険加入に関しては大前提として「同居の親族」という条件がありますので、先の別居状態だと認められません。
逆に住民票が分けられているものの住所は敷地内別棟ながら同一で、住職世帯が副住職世帯の公共料金を出しているなどであれば生計同一が認められる可能性があります。
いずれにしろ、今回の調査で色々と前例ができると思われるのでそれに応じた対応が必要となってきます。
重ねてになりますが、労働保険に関しては「宗教法人の特殊性にかんがみて」のような通達などは見当たりません。
世間一般の企業はどんなに低リスクの業種であろうが基本的に労災保険に加入しています。
このような義務を、特に今回勧奨があった上で無視していることが公になれば、当然ながら社会的な信用が失墜するリスクも大いにあります。
そして、額面が大きくなりそうな厚生年金や健康保険のほう(狭義の社会保険)もクローズアップされ問題となる可能性もあります。
今まで意識していなかった問題だったとしても放置せずしっかりと対応をご検討ください。